船橋市  「人に対して心を閉ざしていた時も……」

船橋市    安藤政信「人に対して心を閉ざしていた時も……」 [FRaU]

 

「タバコ一本もらえますか?」――。撮影の前、スタッフにそう切り出した。彼がタバコに火をつけた瞬間が、“どこからでも撮っていいよ” という合図だったのかもしれない。無防備な、何気ない動きなのに、なぜか目を奪われる。

『夏美のホタル』『あなたへ』『虹の岬の物語』(『ふしぎな岬の喫茶店』として映画化)などで知られる人気作家・森沢明夫さんの恋愛小説『きらきら眼鏡』の映画化にあたり、安藤政信さんは、池脇千鶴さん演じるあかねの余命宣告された恋人裕二を演じた。

物語に登場する “きらきら眼鏡” とは、心にかける眼鏡のこと。あかねは、日々起こる出来事を前向きに受け止めるために、見たものを全部輝かせることができる “きらきら眼鏡” をかけることにしていた。

(c)森沢明夫/双葉文庫 (c)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
医師を演じながら命を救われる側に思いを馳せていました
――今回は、病人役ということで、短期間で体重を落として挑まれたそうですね。

安藤:オファーをいただいたのが、ドラマの「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」で脳外科医役をやっていたときで。ちょうど、“医療” とか “命” というものに向き合っていた時期だったんです。

「コード・ブルー」では医師役だったけれど、医療ものって、やってるとつい患者さんの気持ちにも思いを馳せちゃうんですよね。“命を救う側” ではない、“救われる側” の立場も理解ができるなと思っていたところだったので。自分的にはタイムリーなテーマだったんです。

――とはいえ、『きらきら眼鏡』は、原作者の森沢さんが犬童一利監督に自ら映画化を持ちかけたり、船橋市のプロジェクトチームと協力したり、映画の『コード・ブルー』のような、どメジャーな作品とは対極にあるような、インディペンデントな作られ方の映画です。安藤さんは、何を基準に仕事を選んでいるんですか?

安藤:最近は全然選んでないです。お話をいただいた順にやっていくような感じかな。オファーが来たら、とにかく監督やプロデューサーと会うようにはしてますが……。

でも、20~30代の頃って、監督やプロデューサーと会って話をしていても、「何かピンと来ないな」と思うと、その場では「あ、わかりました」とか答えておきながら、あとでお断りする、みたいなことが割りとあったんです(苦笑)。言ってることが納得できなければ、すぐシャッターを下ろしちゃってた。

それは、粋がったり、尖ったりしていたからなんでしょうか?

安藤:尖っていたというか、人に対して閉ざしていたのかもしれないです。人と会って話すのがとにかくイヤで、人に誘われても全然出かけなかった時期も、1年半ぐらいありました。目と目を合わせてしゃべるのがホントにキツかった。

でも、人間ってコンスタントにしゃべってないと、呂律が回らなくなる。久しぶりに人と会ったら、口がうまく回らなくてビックリしたことがあります(苦笑)。人に対しての寛容さを少しずつ身につけるようになったのは、30代も半ばを過ぎてからです。だんだん、「そうか、それぞれの立場で、作りたいという気持ちがあるんだな」ということを理解し始めた。

精神的にタフになってきたというのもあるのかもしれないけど、最近は、人と会う時間を大切にしてますね。何日か前に、写真家の蜷川実花とお茶したんですけど、彼女からは、「大分、誘ったら来るようになったよね」って言われました(笑)。まぁ、実花とは21歳ぐらいのときからの友人なんですけど、昔は、連絡が来ても、気分が乗らなければ返事しなかったりもしましたから。

――「コード・ブルー」に関して言えば、テレビドラマで安藤さんを観ることができたのが新鮮でした。

安藤:昔だったらたぶんやってなかったと思う。でも今は、監督とかプロデューサーの熱意に応えたい気持ちはあるので。やっぱり、わざわざ会いにきて、「ぜひに」って言ってもらえると、自分にできることがあるならやりたいな、って思うんです。人を受け入れることで、新しい出会いがあったりもしますし。

――でも、活動の主軸は映画ですよね?

安藤:映画は、自分という存在を産み育ててくれた場所ですからね。昔から仲のいいスタッフの中に、「いつか映画を撮りたい」なんて言ってる人もいるし、前に一緒に仕事をして楽しかったチームとか、その人たちと何かやりたいというのはずっと思っていますね。

『きらきら眼鏡』の台本を呼んだ時の印象はいかがでしたか?

安藤:キレイな話だなと思いました。主人公の明海も素敵だったけど、ヒロインの生き方とか、気持ちがすごくキレイで、「この役誰がやるんだろう? その人に会ってみたいな」と思いました。そしたら、(池脇)千鶴だったんで、絶対合うだろうな、と。昔から、千鶴は芝居がすごくうまかったし、過去に何本か、映画で共演はしてるのに、絡みはなかった。それで、うまい人たちと芝居したいなと思って。

――主人公の明海役は新人の金井浩人さんです。役になり切っていて、新人とは思えない堂々としたお芝居でした。

安藤:彼は、すごく素敵だったなと思います。

――若い世代を見て、「俺もあんなだったのかな」とか、自分の若い頃を重ね合わせたりは?

安藤:そこは何にも感じなかったです(苦笑)。ただ、新しい才能を大切にしたいという思いはあるかもしれない。自分もいろんな巨匠……深作(欣二)さん、相米(慎二)監督、(北野)武さん、緒形拳さんとか……、映画の世界では、先輩たちにすごく可愛がってもらったので。

だから、新しい才能に対して、思い切り競って邪魔してやろうというのはないです(笑)。せっかくなら、自分がいい感情に引っ張って、いい芝居を引き出してあげたいなと思いますね。

――年下の監督というのはどうですか?

安藤:最近は年下の監督も増えてきましたけど、年齢は全然気にしたことはないです。若い監督だからどうってこともない。俺はただ、作品に対して向かい合う、ということをやってるだけ。台本を読んで、役のことを想像して、現場では監督が欲しいものを出せるように努力するっていう。それだけですね。